第4章 夕虹
「この間は、すみませんでした」
そして、松本のお兄さんは、大人の男性らしく俺に頭をさげた。
それは、あの日激昂して怒鳴った顔はどこにもない、穏やかな兄の表情であった。
俺も、いえ…と、再びぺこりと頭をさげる。
さげながらも俺は、松本のその後を聞きたくてしょうがなかった。
兄弟は仲直りはしたのだろうか。
いや、でもさっきのお兄さんとパティシエの話だと、まだ拗れてる感じだったような…?
「あまり大野さんにご迷惑をかけるなと、よく叱っておいたので」
…え。
「…いえ。迷惑なんかじゃ…」
予想外の話の方向に、俺は慌てて首を振る。
正直迷惑だったのは、兄弟喧嘩であって、松本は迷惑でもなんでもない。
むしろ松本が来てくれたら嬉しいのに…。
「もう泊まるなんてことしないように言い聞かせましたから」
……は?
「すみませんでした」
ちょっ…
「いや、あの」
俺が焦って呼び止めようとするが、お兄さんは、
「じゃあ、失礼します。雅紀、またな」
と言いのこし、風のように扉の向こうに消えた。
まるで、無理矢理話を切り上げられた印象に、唖然とする。
ほんの少しの…敵意も感じた気がするのは気のせいか。
「うん…また」
雅紀さんの小さな呟きに、ふっと我にかえった。