第4章 夕虹
「っ……」
うたれた熱い頬をおさえる。
手加減してるだろうけど、それでも痛い。
でも俺は目をそらさなかった。
だって、俺は正しい。
大野さんはいい人だ。
兄貴の方が誤解してるから、絶対負けるわけにはいかないんだ。
俺は、じっと兄貴を見上げた。
兄貴は、冷たい瞳を少しだけ揺らした。
それは、まるで思わず手をあげてしまった自分に戸惑っているかにみえた。
「今日は帰らない」
ぼそっと、俺がもう一度言うと、兄貴は不快そうに眉をひそめた。
そのとき、
「あのう…」
遠慮がちに大野さんが口をはさんできた。
「すいません。ここで揉めるのもなんだし、お二人とも俺の家に来ませんか。夜だし…ここ、近所に響くので」
静かな住宅街で、大声をあげて兄弟喧嘩は、確かに迷惑以外のなにものでもない。
俺は、我にかえり、大野さんに、小さくごめん、と言った。
一方、兄貴は、ふう…と、ため息をついて、長い前髪をうるさそうにかきあげた。
「……いえ。俺が帰ります。すみませんが、一晩こいつをよろしく」
兄貴は、にこりともしないで、大野さんに儀礼的に頭をさげ、踵を返した。
やがて、エンジンの重低音が響き、スポーツカーが静かに発進する。
黙って佇んでる俺の肩を、大野さんが気遣うように、ポンポンとたたいた。
「帰ろうか」