第4章 夕虹
あのシルバーのスポーツカーは、車好きの兄貴が、頭金を貯めに貯めてやっと買ったものだ。
新車は手が出ないから、中古だけどな、と笑ってた兄貴は、それでも嬉しそうにしていた。
その車から、見たこともないくらい無表情に降りてきたのは…まぎれもなく兄貴。
あんな顔で車に乗ってんの、みたことない。
「…お兄さん…だよね?」
大野さんがぽつりと聞いてきたけど、俺は驚きすぎて声も出せなかった。
母さんのLINEに、アルバイトの仲間のうちに泊まりにゆくと打ってから、まだ一時間もたってない。
どうして、兄貴がいるの。
どうして、ここにいるの。
「…なんで」
喉にひっかかったような声か出た。
立ち止まってしまった俺を、大野さんが心配そうに見上げる。
「…松本?」
「……どうして…」
俺が呟いた言葉が聞こえたのだろう。
歩いてきた兄貴が、口元を歪めて、はっと鼻で笑った。
「…どうして?どの口が言うんだ、おまえ。見え透いた嘘つくんじゃねぇわ」
「……」
「帰るぞ」
恐ろしく冷たい瞳をした兄貴は、俺の腕を、がしっと掴んだ。
俺はその手を反射的に振りほどいた。
「嫌だ」
「…俺の言ったこと忘れたのか」
「忘れてない。でも嫌だ」
「潤」
「兄貴一人で帰れよ!」
怒鳴った俺の頬に、鋭い痛みが走った。