第4章 夕虹
また通学のバスで会えるだろうから、その時に返そうと思っていたけど。
そうか……有名人なんだ。
俺は、ポケットの上からハンカチをそっと触った。
あの人ともう一度話したいとは思っていた。
純粋な興味だった。
このハンカチを結果的に受け取ってしまったのは、また会う口実が作れるかも。という下心が芽生えてたのは確かで。
我ながら気持ち悪い感情ではあるけれど、もう一度会いたいって……思ったんだよなぁ。
頬杖をつきながらぼんやりしてると、風間が、でもさぁ……と、言いにくそうに続けた。
「………大野先輩っていろんな噂があってさ」
「噂?」
「しかも、どれもこれもあんまりよろしくないんだ」
「……例えば?」
「……女をとっかえひっかえしてる、とか。男も恋愛対象だ、とか。過激なのになると、体、売ってるとか」
「……マジ?」
唖然とする。
でも、すぐにそれは嘘なんじゃないかと思った。
だって、あの僅かな時間だけとはいえ、彼の佇まいからはすごい……なんというか清潔感がただよってた。
真っ当な精神とでも言おうか。
そんな手のひらで人を弄ぶような、そんなイメージとはほど遠い。
まして、そんな風俗まがいのことをしてるなど、もってのほかだ。
そうだよ……絶対違ぇよ。
「俺は違う印象をもったけどな……」
俺が呟くと、
「そうであってほしいね」
風間が、うん……と頷いた。