第4章 夕虹
「なに見てたの?」
「ん?ああ……二宮ってどんなやつだっけなと思って」
「あのおとなしいやつ?」
「うん……」
俺たちの視線の先では、二宮は頬杖をついてなにやら難しい顔をしながら本を読んでる。
「そうだね……あんまり誰かといるとこみたことないね」
風間も、じっと見つめながら、考えるように腕をくんだ。
俺は、実はさ……と、今朝あった出来事を風間に話して聞かせた。
俺が助けた綺麗な三年の後輩が二宮らしいってことを言いたかっただけなんだけど、風間の興味のポイントは、意外にも綺麗な三年のところだった。
風間は目を丸くして、
「それって……大野先輩のこと?」
と、聞いてきた。
いや……それが……
「…………知らない」
「は?名前聞かなかったの?」
「だって……」
自己紹介するタイミングもなかったし、というと、風間はなんでだよ……と、いうように眉を下げた。
「三年の大野先輩っつったら密かな有名人だよ。地味なようにみえて、めちゃめちゃ綺麗だろ?」
俺は白い肌と色素の薄い髪の毛の彼を思い出す。
あの柔らかな笑顔は確かに綺麗だった。
「ああ……まぁな」
「あの人を狙ってるやつ、多いらしいもん」
「……そうだろうな」
別れ際に、ごめんね、とハンカチを渡された。
荷物を二個も抱えてたせいで、濡れた俺のリュックを見て、これでふいて、と言われて押しつけられた。
断ったものの、強引に渡されて……それは今俺のポケットにある。
名前を聞き忘れたことに気づいたのは、彼の後ろ姿が保健室に消えるのを見届けたあとだった。