第4章 夕虹
2人でビル横の階段に腰かけた。
真夏の夜の生暖かい空気は、そこかしこの飲食店の匂いを運んでくる。
油がまじったそれは、あまり好きではない。
それらの不快な匂いをたちきるように、俺は勢いよくサイダーをあおった。
「あっついな……」
汗ではりついたTシャツをパタパタとして、体に空気を送る。
松本は、水を買って、いっきに半分くらいまで飲んだみたいだ。
「……今日はバイト帰り?」
俺は、静かに問いかける。
「うん」
「……びっくりした。急に来るんだもん」
「ごめん……ちょっと、大野さんの顔みたくなって。衝動的に来た」
「俺に?」
「……うん。なんかこの間は、ひたすらに頭が痛かったし。普通に喋りたくて……あ!服、今度返すから!」
思い出したように慌て出した松本に、俺はやんわりと笑った。
「いいよ。あれはあげる。言っただろ、俺にはデカイんだ」
「でも……」
「雅紀さんには言っとくから」
そう言ったら、松本はちょっと黙って、な にか言いたげな顔になった。
「あの……」
「ん?」
「……やっぱいい」
俺は、ぷっと笑った。
「なに。言いかけてやめないでよ」
「…………怒んない?」
「怒んない」
面白くて、うん、と、頷いてやったら。
松本は、一瞬黙って、それから俺の瞳をみて。
「雅紀さんって……大野さんの恋人?」
とんでもない変化球を飛ばしてきた。