第4章 夕虹
近くの駅ビルに飛び込んだ。
はぁはぁと、息を弾ませながら後ろを振り返るが、追ってきてる様子もない。
松本も、険しい顔で来た道を眺めてから、はぁ……と、深く息をついた。
「ありがと……大野さん。どうやって対応したらいいのか分からなくて」
言って、松本は腕で流れる汗を拭いた。
「……もし、店の常連さんだったら、俺が変なことして迷惑かけたらって思うと、強気にでれなかった」
「……常連でもなんでもないよ、あんな程度の悪いやつ」
「そか……よかった」
「……なんにもされなかったか?」
「……なにも……」
「嫌なことは何も言われなかったか?」
「……」
口ごもった松本に嫌な予感がする。
嘘をつけない正直な男だ。
俺の顔を真っ直ぐに見ない。それだけで、何を言われたか想像がついた。
……俺は、どういう返事をしたらいいのか考えた。
「……事実無根だろうから怒んないでよ?」
「……うん」
「あの店は、男とヤれるとこだって」
「……うん」
「そんなわけないのにね?」
ははっと笑う松本に……俺は静かに頷いた。
「あたりまえだろ……そんなことないさ」
「だよねぇ?」
「……それより喉かわいた。なんか飲もう。自販機どっかない?」
「あっちあるよ。行こ行こ」
松本と、入り口脇にある赤い自販機に向かって歩く。
…………真実なんて言えるわけもなかった。