第4章 夕虹
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俺の席は、窓際列の真ん中あたり。
二宮の席は、逆サイドの廊下側の一番前の席だった。
静かなやつだな、と思うくらいで、今まで気にもとめてはなかったけれど、不思議なもので、話題にのぼるとその存在が気になり始める。
俺はシャーペンをくるくるとまわしながら、じっとそいつの横顔を観察した。
いつも本ばかりよんでるせいか、うつむいた顔しか見たことなかったけど、こうして横顔をみると、なかなかどうしてきれいな顎のラインをしてる。
先生の話をじっと聞いてる目は、子犬みたいにつぶらで。
不機嫌そうに常に尖った口が、弧を描けば、だいぶ、違う印象になるんじゃないかと思った。
「次の問題。松本、前にでて解け」
…………げ。
突如、指名されて、顔を前にもどせば、厳しい顔をした数学の教師がこちらをじっと見ている。
大慌てで手元のノートをめくる。
心ここにあらずの顔が、授業に参加してないと、ばれたのだろう。
どこだ?畜生……
すると、後ろから、
「56ページ、大問2」
と、囁かれて。
ノートをめくりながら、その箇所を探し当て、はい、と立ち上がった。
「サンキュー助かった」
授業が終わって振り返ると、ひとのよさそうな笑みを浮かべた風間が、ううん、と笑った。
この風間という同級生は、このクラスで初めて友達になった人物だ。
優しい人とは、こういうやつのことを言う、と、お手本にできそうなやつである。
風間はおかしそうに肩を揺らす。
「よそ見してんなぁ……って思ってたからさ」
「……そんなに目立ってたか?」
「きっとね」
「……あぶね」
目をつけられると、厄介な教師だと、裏情報で知っていただけに、予習だけはしていたから、事なきを得た。