第4章 夕虹
「喋ったことは……ねぇけど、いるっちゃいる」
俺の反応に、彼は、なんともいえない顔になった。
「もしかしてさ……あいつ、いつも一人?」
「………本読んでるかな」
正直に教えてやったら、やっぱりか……と、苦笑いになる。
「知り合いか?」
「中学校のときの後輩。弟みたいなもんだよ」
「ふうん……」
「人嫌いでさ……いいやつなんだけど」
彼は言って、パシャ……と、水溜まりをよけるように歩いた。
その拍子に、ふらりとふらついたのに気づき、俺が片手を差し出す。
「ぁ………まだだめか…」
顔をしかめて、立ち止まりかけるから、俺も一緒に立ち止まる。
いまだ、めまいがとまらないようだった。
「学校着いたら保健室行けば?」
「ん……そうしよっかな……」
はぁ……とため息をつく彼の頬はまだ青白いから、ほんとに具合が悪いんだと思った。
雨足はだんだん弱まってきてて、霧雨のようなものにかわりつつある。
俺は、彼の片方の肩にかかる黒のリュックをひょいとはずした。
雨に濡れてるそれを、自分の肩にかけると、彼は目を丸くした。
「あ……え……?」
「持ってやるよ。ほら歩いて」
何故、初対面のやつにここまでしてやるのか自分でも謎だったけど、なんか彼にはほっておけない何かがあった。
「……いいよ、悪いよ……」
「いいから」
「………………ありがとう」
彼は、申し訳なさそうにペコリと礼をして、俺の横をゆっくりと歩き出した。
茶色い髪の毛が、艶やかにきらめき、その妙な色気みたいなものが、彼の中性的な印象を際立たせていて、俺は、ちょっとだけドキドキした。