第4章 夕虹
深呼吸をしてる彼の制服をじっとみる。
「三年……?」
刺繍してある校章の色が、青なのを確認して呟くと、彼は、うん、と頷き、俺を見上げた。
年上か……
背はだいぶ、違うけれど、な。
みたことないのは当たり前のことだった。
学年が違うと校舎も違うから、同じ部活にでも所属しないかぎり、会うことはないから。
「……はぁ……ありがとう。少しマシになった」
持ってた傘を、ポンと咲かせ、俺の傘からでてゆく。
彼のぼんやりした目も、足取りも、しっかりしてきたのを確認する。
顔はまだ青白いけど、もう大丈夫だろう。
「……良かった」
俺の言葉に、彼はふわっと笑い、どちらからともなく学校に向かって歩き出した。
初対面のやつと並んで歩くなんて、普段の俺にはあり得ない話だ。
だが、なんだかこのまま彼をほったらかして先に行くには心配だったのもあり、あえて彼の歩調に合わせた。
でも、正直、話題なんかない。
パラパラと傘に当たる音色をなんとはなしに聞きながら、黙っていると、彼は傘ごしに顔を出し、俺の胸元をじっと見て首を傾げた。
「……君は、一年?」
「……そうだけど」
俺の刺繍は黄色だ。
「何組?」
「二組」
「……あ、じゃあニノと同じクラスだ」
ニノ……?
俺が考えるような素振りをみせたから、彼は、あれ?という顔をした。
「二宮和也……いない?」
二宮……
俺の脳裏に色白の神経質そうな顔をした、クラスメイトが浮かぶ。
俺と正反対のタイプの男で、常にクラスの端で本を読んでるやつだ。
入学以来話した記憶はない。