第4章 夕虹
冗談でもなんでもなく、こんな綺麗に整った顔を俺は初めてみた。
眼鏡をはずしたら、さらに綺麗……いや、男にそんな言葉をつかってもよいものか迷うが……そう思ってしまうくらいの衝撃だった。
少し垂れた瞳は、髪の毛と同じで茶色く、具合が悪いせいか潤んでいて。
ふっくらとした色白な頬は、ニキビ知らずのすべすべで。
唇が青いのが気になるが、とりあえず俺の周りにはいないタイプの人種に間違いはなかった。
「あ……ありがとう」
もう降りる停留所か、とつぶやき、よろよろと立ち上がった体が、いまだふらついてるのをみて。
こりゃダメだと、その細い腕をつかみ、出口に誘導する。
なんとかバスをおりると、彼は傘もささずに前屈みになった。
慌てて自分の傘をかざしてやる。
一瞬吐くのかと思ってドキリとしたが、彼は深い深いため息をついて、じっと固まったあと、体をゆっくり起こした。
「……大丈夫か」
「ああ……ごめん。ちょっと寝不足気味だったものだから……」
きつい化粧品の匂いに、酔ってしまったのだという。
確かに、今日はひときわひどかった。
雨のせいで換気もままならない車内は、俺たちには地獄でしかない。