第4章 夕虹
「背……伸びたね」
冷蔵庫の前から立ち上がると、隣に来た智が、俺をまぶしそうに見つめる。
「……そぉ?」
一番新しい記憶では、まだ俺が智を見上げてた気がするけど……確かに、今や同じくらいの肩の位置まで追いついてた。
「牛乳飲んでるもん。サトは?ちゃんとそういうの飲んでるの」
空っぽの冷蔵庫を案じるつもりで聞いたら、
「牛乳……?嫌いだし」
智がおもしろくなさそうに口を尖らせてみせるのを見て、ふと、思い出した。
……そうだった。
昔の記憶がよみがえる。
給食が嫌だって、毎日嘆いてたっけ。
智の牛乳嫌いは、アレルギーがあるとかじゃないから、先生も許してくれなくて、鼻つまんで飲んでるって。
「……今度イチゴオーレかなんか差し入れてあげるよ。それなら飲めるでしょ」
俺が、しょうがないな、と顔をつくってみせたら、智は、ありがと、と微笑んだ。
離れていた時間があったにも関わらず、俺たちは昔どおり喋ることができた。
智は、あまり詳しくは自分のことは語らなかったけど、親戚とは縁を切ったことと、現在お世話になってる人がいて、その人のおかげで高校も行ってることだけをポツポツと話してくれた。
あまりの不条理な出来事に、中途半端な怒りや悲しみを俺がここで出すことは、なんだか憚られ、俺も淡々とそれを聞いた。
きっと智は、それらを何でもない顔をして喋ることができるまでに、時間がかかったのだろうな……と、思った。