第4章 夕虹
鼻をすすったニノは、黙って俺の手を振り払って、出ていこうとする。
俺は、すかさず足でニノの出口を、ふさいだ。
ニノは、下をむいたまま震える声で訴えた。
「……帰らせて。お願い」
「…………」
「惨めにさせないでよ……」
その絞り出すような声をきいて……その姿を見て、このまま、ニノをひきとめるのは無理だと思った。
ニノが壊れちまうと思った。
迷いながら、俺は、ジーンズの尻ポケットに手を突っ込んだ。
今日の小遣いが入ってるそこから、万札を二枚つまみだし、ニノの手に握らせようとする。
「……これでタクシー拾って」
「いらない」
ところが、あっさりと振り払われた。
床に万札が散る。
片手で松本をささえたままだから、それらを拾えない。
俺は考えた。
ここからニノの家まで遠い。
歩ける距離なんかじゃないんだ。
真夜中に、こんな華奢な男が一人でふらふらしてたら……いろんな意味で危ない。
どんなに考えても……歩いてなんて帰らせられない。
「頼むから……タクシーで帰ってくれ」
「いらない。公園ででもどこでも寝れる。俺は女じゃないから大丈夫」
ぴしゃりと跳ね返してくる言葉に、俺は再び尻ポケットから万札をだし、今度は直接ニノのリュックのポケットにねじ込んだ。
ニノが苛立つように体をねじった。
「いらないってば!」
「頼むから!この世はいい人間ばかりじゃないんだぞ……!」
俺は、苦しい気持ちでニノの腕を掴んだ。