第4章 夕虹
「……松本?」
傍らに一緒にしゃがみ、その丸まった背中にそっと触れる。
彼が着てる黒のTシャツは、冷や汗なのか脂汗なのか、じんわりと湿っていた。
松本が、俺の声に気づき、ゆるゆると頭をあげる。
「あー……おーの……さん……」
「ごめんな。俺を待ってたんだろ」
「うーん……」
ふわふわした口調で、頭をゆらゆら揺らす。
俺のこともちゃんと認識してるのかどうかわからないほど、かなり酔っ払ってる。
……まずいな
あの厳格そうな兄貴の弟だ。
酒なんか、試したこともないだろう。
……それなのに、ハイボールときた。
俺は頭をかきむしりたい思いで、もう一度松本の背中をゆっくり擦った。
「大丈夫か?」
「……うー……ん……きも……ち……わるーい……」
松本の体がゆらゆら揺れて俺にもたれてきた。
しっかりもののイメージなのに、今の松本は完全に甘えモードになってて……ぶれたキャラに、嬉しいというより、ヤバさしか感じない。
こんなん家には帰せねーじゃん……
俺は、松本を自分の家に連れて帰る決心をした。
電車は無理でもタクシーでなんとか連れて帰れるだろう。
幸い、小遣いはたくさんある。
「松本?」
「おーの……さぁん……おぇ」
「ちょっ……ちょっと待て!あっち!」
俺は、渾身の力で松本の体を便器にもたれさせた。
だが、えづくばかりで、何もでてこないみたいで。
俺は、ちょっとごめん、と、松本の口に指をつっこみ、無理矢理吐かせた。
「楽になるから……吐いちまえ」
それから俺は、声をかけながら、延々と松本の背中をさすりつづけた。