第4章 夕虹
よく降るなぁ……
梅雨だから、仕方ないと言えば仕方ないのだが、三日間降り続く雨に、うんざりする。
満員の車内は、女子生徒の化粧と香水の匂いでだんだん頭が痛くなってきて。
いっそ寝てしまおうと俺は目を閉じかけた。
そのとき、唐突にその人が目に入った。
俺の座る位置の前の座席のポールに指をかけ、立っている男子生徒。
黒ぶちの眼鏡をかけた横顔が、恐ろしく綺麗で。
鼻筋が、こんなに整った人を初めてみた。
正面も、きれーな顔してるんだろうな、となんとはなしに思ったときに、異変に気づいた。
確かに蒸し暑い車内だ。
だが、彼の額に浮いてる汗は尋常じゃなく。
よくよく見たら色白なんかではなく、青白い顔色なのだと思った。
俺は思わず手をのばし、彼の腕をつかんだ。
眼鏡の奥のうつろな目が、ゆるゆると俺を捉える。
「ちょっと……あんた大丈夫か」
走行中のバスなのに、俺が立ち上がったものだから、
周りも何事かと、見守る。
「座れよ、ここ」
座席をあけてやり、そっと腕を引っ張ったら、その細いからだは、ふらりと揺れ、崩れるように座席に座り込んだ。