第4章 夕虹
「俺、マジでなんにも覚えてないんだ……だから、俺がおまえに、泣くほどひどいこと言ったのかな……と、思って」
顔がこわばる俺に、さらに智は、俺の胸を抉るようなことを言う。
友人の俺に突然抱かれた、なんて、そんな普通じゃない事実を責めずに、逆に自分に何か落度がなかったか気にする……すげー人だな、と思う。
俺は、不意に笑いがこみあげてきた。
「……ニノ……?」
智が、戸惑うような目で俺を見る。
………そんな目で俺を見んなよ。
憐れまれているような気分になるよ。
「ひどいこと……?」
俺は、そのままそっと智の頬を包んだ
そして、その熱い頬をゆっくり撫でた。
今はちょっと荒れてるけど、その少し開いた唇にも指を滑らせた。
俺は、呟くように答えてやる。
「…………うん……言ったよ」
「……え……」
「すごく俺が嫌なこと……言ったよ、あなたは」
「………ごめん……」
智は、やっぱり……というように潤んだ瞳を見開いた。
そうか。あなたは抱かれた理由を知りたいんだね。
それは、俺を怒らせたせいだ、と思いたいんだね。
じゃあ、その理由を言ったら……あなたはどう思う?
俺は、泣きそうな智の瞳をのぞきこみ、その熱い額に軽くキスして、にこりと笑ってやった。
「松本に会いたいって……俺に言ったんだよ」