第4章 夕虹
はい、どーぞ、と渡されたペットボトルにはストローがさしこんである。
ニノのその配慮に感謝しながら、口をゆっくりつけた。
カラカラな体に、スポーツドリンクの冷たい液体がじんわりと染み渡ってゆく。
……おいし……
コクコクと飲み続ける俺に、喉が渇いてたんだね、と、ニノが苦笑いした。
「あとさ……お粥パックとか、ゼリーなんかもあるから。適当に食べなよ?」
「……うん」
「じゃあ……俺帰るね」
「ありがとう……ちょっと待って。金払う」
起き上がろうとした俺を、ニノが慌てて制した。
「今度でいい。心配しなくても、代金はしっかりもらうから安心して」
言いながら俺の肩を押し戻すニノの手を……ぐっと掴んだ。
ギクリとしたように、ニノが動きをとめる。
細い手首を握りしめ、俺はニノを見上げた。
かさついた唇をなめ、一番記憶のあやふやな部分に斬り込んだ。
「ニノ……」
「…………」
「昨日……俺を抱いた?」
ニノは、目を見開き、しばらく黙って俺をじっと見つめ返した。
その茶色の瞳は、ゆらゆらと揺れてる。
まるで、言おうかどうしようか迷っているかのよう。
長い沈黙の末、
「やっぱり覚えてないんだ……」
ニノがぽつりと呟いた。