第1章 星に願いを(ラビ)
「チッ……これでいいかよ」
「え!?ちょ、待って…」
神田はスミレの呼び掛けに答えず、短冊を押し付けて科学班を出て行ってしまった。
「ちょっと!神田!」
「行っちゃいましたね」
「あーあ。私、怒らせちゃったな〜」
肩を落とし、神田に押し付けられた短冊に目線を落とすと、丁寧とは言えないが何か書かれていた。
『上達祈願 神田』
短文も短文。しかし、しっかり名前まで書いてくれている。
きっと、剣術の上達を願って書いてくれたのかな。
まさか神田が参加してくれるなんて夢にも思わなかったから、感動して震えてしまう…あの、神田が!
「あら、ちゃんと書いてってるじゃない!」
「さっすがユウ。男前さね…(てか、人の言うこと聞くなんて。スミレ、ユウを手懐けてるさね)」
「私、皆に楽しんでもらえたらなんて思ったけど。おこがましかったね。むしろ、皆が私に気を使わせちゃって…ありがとね」
皆の優しさに鼻の奥がツンとする。
「そんなことないわ!私、本当に楽しかったもの」
「僕の方こそ!こんな素敵な行事を知らなかったですし!…心がとても温かく満たされました。ありがとう、スミレさん」
「ア、アレンくん…!」
アレンはスミレの手を包み込むかのように、両手でぎゅっと握る。
うう、アレンくんは本当に紳士だなあ。
アレンくんにこんなことされると、照れてしまうよ。
涙目になりながらアレンを見つめると、アレンの顔にも朱色がかかるーー
「さっ!スミレも仕事あるし、俺たちはズラかるさねー」
ラビはスミレからアレンを引き離し回収する。
スミレもあ!なんて、名残惜しそうにしている。
「な、何するんですかラビ!」
「仕事の手を止めさせちゃ悪いだろ?撤退さ。
(ライバル増やしたくないかんな…てか、いつまでスミレの手を握ってるつもりだったさ?)」
「そうね、そろそろ戻りましょうか」
「(確かに、私もそろそろ仕事しないとなあ。)
3人とも!来てくれてありがとね!」
スミレは科学班の扉まで三人を見送る。
ラビはすれ違いざまにスミレの白衣のポケットにメモを忍ばす。
その様は流れるような動作だった。
別れ際に、一瞬ラビが振り返りボソッとスミレの耳に呟いた。