第2章 ブックマン補佐の彼女①(ラビ)
ガタッ
「うわ?!…って、あれ、ラビ?」
「帰んぞ」
気がつけば。
オレはアオイの二の腕を掴み、無理矢理席を立たせていた。
「ラビ、まだ居たの?」
「居たの?じゃ、ねーだろ」
「ちょ、痛い!痛いよっ!」
オレは何やら騒いでいるアオイを無視して半ば引っ張る形で店を出ようとする。
一刻も早くこの場から立ち去りたいのに、それをモブ男達が遮った。
「オイオイ!いきなり何だテメェ」
「俺らのネェーちゃんを何処に連れてく気だぁ?!」
「…連れなもんで。失礼するさ」
ありったけの殺気を込めてにっこり笑顔をモブ男達に向ける。すると何かを察したのか「「ひっ」」と小さな悲鳴を上げ、オレ達が通る道をあけた。
(“俺らのネェーちゃん”って…)
ふざけるのも大概にして欲しい。
アオイはオレの…ブックマン後継者の補佐だ。それ以外の何者でもない。
抑えられない怒りをレストランの扉にバンッッとぶちまけて立ち去った。
「ねぇ、ラビ」
「…」
「ラビ」
「…何さ」
「どうしたの?」
「別に」
オレの胸の内はそんな“別に”なんてもんじゃない。
アオイを引っ張り、地団駄のように荒く廊下を踏み鳴らしながら宿の部屋へと向かう。
『ふふっ、お兄さん達、私でいーの?』
男達に熱く絡み合うような視線を送り、物足りなさそうにそんな台詞を吐き出すアオイはとても艶かしかった。
クラッときたし、欲情した
ましてや惚れている女、だ。
しかしそれはオレの知らない、見たことないアオイの姿だった。
例え任務のためだとしても、絶対オレには向けられることのない表情や仕草をしたアオイに酷く嫉妬し、苛ついた。
そして、異性として一生認識されない自分がとても惨めだなと思った。
「ごめんね、待たせちゃったみたいで」
「………違ぇし」
「えっ、違うの?」
どうやらアオイは、オレが腹を立てているのはレストランで待された事だと思っているようだ。
「……んな事も、わかんねーんだな」
「ん?なにか言った?」
「なんでもないさ〜」
こんなに長く年月を共にしているのに肝心なことは何も伝わらない。……いや、伝わっても困るのだが。