第2章 ブックマン補佐の彼女①(ラビ)
「ネェーちゃん別嬪さんだなぁ!」
「ふふ、ありがとう!」
(…そんなん当たり前さ)
こーゆー聞き込み用の、男がいかにも鼻の下を伸ばすような格好をアオイは今している。
前に「別にそこまでする必要なくね?」って言ったら「TPOに合わせた方が楽なの」と言われた。
(そりゃ、そーかもしんねぇけど…)
男Aは不遠慮にアオイをテッペンからつま先まで舐め回すように見る。
その様子にオレの中でフツフツと熱いものが湧く。
「この辺じゃ見ねぇ顔だな」
「この町に来たばかりなの」
(!、気安くアオイに触んじゃねェ)
男Bの手がさり気なく、だけどイヤラシくアオイの手に触れる。
オレだってそんな風に触れたことはない。
「やだ、恥ずかしいじゃないっ」
アオイはやんわりと断り、照れたフリをする。
…演技とはいえ、役に入り過ぎじゃね?
オレにさえ演技だとしてもそんな表情は絶対にしない。つーか、してくれるわけがない。
あ、なんか悲しくなってきた
「…オレの純情、返せよなあ」
アオイと2人だけの任務っつーだけで、こんなに浮かれる程嬉しかったのに。でもそんな風に思ってたのはオレだけさ。
(そんなん、ハナから分かってたけど…)
アオイは真面目すぎるから。
ファインダーの仕事の聞き込み調査で、効率が良くなるのなら女の武器を簡単に使う。以前問いたやり取りを思い出す。
『何でそこまで頑張るんさ?』
『だって、ラビやお爺ちゃんと任務同行できなくなったら嫌だもん』
『黒の教団とジジイの成約で、オレ等3人はなるべく同行できるようにしてもらってるだろ?』
『そうだけど…
黒の教団の人達って、みんな頑張ってるから。私も手伝いたいなって思っちゃって』
黒の教団に来る前のアオイは、そんな簡単に自分を切り売りするような奴じゃなかった。
オレ(と、おまけにジジイ)の為だけに生きていたのに、いつからそんな感情的になっちまったんだ?
「…オレだけを見てくれればいいのに」
オレの虚しい独り言は、もちろんアオイに届く訳もなく店の喧騒に掻き消された。
この不毛な想いも、一緒に掻き消してしまえたらどんなに楽だろうか。
近すぎる存在は遠すぎて、残酷だ。