第1章 星に願いを(ラビ)
「……」
どのくらい、経ったのだろう。
いや、時間で言えば数秒の間だったと思う。
ラビのタレ目が大きく見開いた、あの驚いた顔。
数時間も眺めていたような、そんな気分になった。
しばらくすると、ラビは黙って短冊にペンを走らせる。
「…俺の願い事は、これさね。
“スミレが俺の事を 忘れませんように”」
「…忘れるわけないじゃんっ、命の恩人だよ?」
「スミレは、そう言ってくれると思ったさ。
…スミレの知っての通り、俺はブックマンだから。いつかこの場所を離れ、名も捨てる。離れ離れになる時が、必ず来る。」
スミレの胸が、ズキンと痛む。
ラビの言葉に、耳を塞ぎたくなる。
どうして、こんな哀しいことを言うのだろう。
告白して、フラレてしまったような気分だ。
まるで鈍器で頭を打たれたような、くらくらする。
「そうじゃなくても、お互い聖戦に身を捧げてる。明日をも知らぬ我が身、さ。
そうなった時。
ここに“ラビ”という俺が居たことを…
どうか、忘れないでほしい。」
以前、彼がふと零した独り言を思い出す
ーーーー『ブックマンに、心はいらねぇんさ』
ブックマンと仲間の間で揺れ動く本心に、苦しんでいるラビの姿を何度も見ている。
今、
どんな想いで、伝えてくれているのだろうか。
「…スミレが、“あぁ、ラビって奴がいたな”って、忘れないでいてくれれば、俺は。その思いだけで、やっていけるさ。」
そんな哀しいこと、言わないで
その一言が言えない。
彼のブックマンになる、覚悟を。
努力と、責任を知っているからこそ、言えない一言だった。
「忘れない、よ…絶対。忘れ、ないっ」
スミレの目から、雫が一筋流れ落ちる。
それをラビが、指で拭う。
優しい目で、スミレを見つめる。
「俺も、スミレのことを絶対に忘れない。」
優しい隻眼なのに、眼差しはとても強くて、目が離せない。
「…ラビは、何処か行っちゃうかも、しれないけど。私は、ここにいる。
この聖戦が終わって、AKUMAがいなくなって。
科学班がいらなくなって。黒の教団がなくなる、その日まで。
ずっとずっと、ラビを覚えてる。
ずっと、待ってる。」