第2章 本編 幸せの青いルフ
*ロクト目線*
軽い自己紹介も、剣の交わし合いも、本当は必要ない。
でも、俺がそうしたかった。どうせどちらかが死ぬことはわかっているけど、もっと彼女のことを知りたいと思ったんだ。
もしこの人・・・メローザがすごい剣技の持ち主だったら、きっと俺は死んでしまうだろう。でももう、そんなことでさえも、どうでもいい。初めて”恋”をした人に殺されるなら本望かもしれない。
踊るように舞い、剣を振り回す彼女は美しかった。ただ・・・
すべてを諦めたような、目をしていた。
それもそうだろう。こんな場所で死ぬまで戦わなければならないのだから・・・
距離を詰め、少しずつ話しかける。
「メローザの剣術は君に合っているね。軽やかで、うまく短剣を使えている」
「あ・・・・・・ありがとう。ねえ、どうして私に話しかけるの?要らない、意味のないことなのに」
「・・・君について知りたいからかな」
言葉は自然と口から溢れていた。
少し恥ずかしいと感じて耳が赤くなる。
顔は・・・・・・知らない。
そんな俺の様子を悟ったのか、彼女がくすりと微笑した。
美しかった。
出来ない。こんな綺麗な人を血で染め上げるなんて。
でも、死ぬのは怖い。コワイ。
恐怖、戸惑い、恐れ。
様々な思いが俺を襲い来る。怖くて震えそうになる。
剣を振るう手も止まりそうだと思った時、俺の耳に綺麗な声が届いた。
「私も、君に・・・ロクトについて知りたいな」
下に向けていた視線を上げると、優しい顔。殺意も何もないとても美しい顔だった。
この闘技場のルールは『どちらかが死ぬまで闘い続けるこ
と』だ。なら殺し合っているように見せかけて、話すことだって可能だろう。
少しぐらいいいだろう?どうせこれから死ぬのだから。
そう思い不器用に笑ったら、メローザが一瞬だけにこりと笑った。