第5章 ふわりふわり揺れる思い
聖臣side
「泣いてたって…沙耶俺には、一言もそんな事言わなかった…。
俺が知ってるのは、あの日佐久早君にめっちゃ怒られてたってしょげていた事と、飯が食えんって悩んでいた事ぐらいだ。
なんで隠そうとするんや…そんなに俺は頼りないんか?」
苦悩する宮侑と知らなかった事実を知らされて、戸惑う治と元也。
「嫌だったのかな?」
ポツリと話した元也に視線が集まる。
「沙耶って、案外負けず嫌いなとこもあるけど、基本メンタルは強くない。
でも、強くならないといけなかったからだよね?」
俺に視線を向けて、相槌を打つ。
「治君にも言ったけど、沙耶はさぁ、気持ちを隠すの得意なんだよね。
辛くても辛いって言えなくて、寂しいって思っても言えない環境でいたから、俺達は少しでも不自然な態度や声とかしていたら、分かるんだよ。
でも…今回ばかりは、聖臣しか見抜けなかったってことでしょう?
聖臣…まだ隠してない?沙耶は、何か言ってたんじゃない?」
宮侑も感じていた沙耶の異変。
それも、記憶がない事と思うようにいかない体が、沙耶の心を蝕んで今にも壊れそうだった。
近くにいてもすり抜けていくんじゃないかって、怖くて仕方がなかった。
今まで俺達に隠していた些細な感情も揺れるようになり、平気で嘘をつくようになった。
あの日…窓から体を乗り出す沙耶の姿を見た瞬間―
【死】を連想させる程、無表情でいた沙耶を見たからだ。
こんな事をこいつらに話せる状況でもない。
愛される価値の無い人間だと自分を思い込み、俺達に何も返す事が出来ないと焦る一方、心のバランスが崩れていくその姿が、深く沈んでいっていた。
「沙耶は、今の状態に不安で堪らないんだ。
記憶がない事は、自分が自分じゃなくなるって怯えて怖がって泣いて・・・俺達に何も返せないって思っている。
だからだろうな、そんな自分を嫌いになっていたから、過度な刺激を与えることはしたくない」
そう話せば、宮侑さえ知らなかった事実に手を握りしめている。
「なんで、いつもお前ばっかり・・・」
「さっきお前が言ったまんまだよ。
誰にもわからないように俺は、そう仕向けた。
弱い部分を吐かせないと、沙耶はダメになると思ったからだ」