第5章 ふわりふわり揺れる思い
聖臣side
「この間のは、ホンマにキツかったんやで。
沙耶が、呼んだのは俺じゃなくて佐久早君なんやと思うたら、なんで俺を呼んでくれへんのか考えた。
…考えたけど、しっくりくる答えが見つからない。
ただ、まだ攻め足りなかったかもって思えた」
攻め足りないとか、沙耶にこれ以上近づくなよ。
「お前がどうあれ沙耶が、俺を呼ぶのはいつもの事で、今に始まったことじゃない。
そうやって、ずっと一緒にいた時間の中で沙耶は、俺だけにしか弱みを見せなくなった。
アイツは、そんなに強い人間じゃない。
無意識に、俺を必要としている」
「無意識ねぇ~?違うやろ!今ピーンときたわ。
佐久早君って、ホンマにえげつないやん。
そう、仕向けていったん違うか?」
仕向ける?そう…なのかもしれない。
おばさんは、仕事も忙しく帰りも遅い事が多い。
大抵の事は、自分でなんでも出来るようになっていて、忙しい母親の代わりに家事も熟していた。
特に、小さい頃から母親に対して迷惑をかけるのが嫌で、優秀な聞き分けの良い子でいたと思う。
それだって、限界がある。
プツリと切れた糸は、なかなか修復不可能なところまできていたと思える。
母親に言えない事を察して俺が、沙耶を甘やかしていた。
「そうだな…沙耶自体そんなつもりなんてないだろうけど、本当に辛い時に辛いって言えない事が多い。
だから、自然と沙耶の隠している事を探す様になっていった。
それは、お前だって感づいていただろう?」
「そうやな、この間も嘘ばっかり並べて食べたものを吐いて苦しいはずなのに、平然とした顔で大丈夫やとか言うとったな」
食べることを体が拒絶していた時、青ざめた顔を俺達に悟られないよう、いつも笑顔を作っていた。
「誰だって、言わなくても自分の気持ちを理解してくれ人には、本心を言う。
それが、誰かってことだ。
俺は、本心を言わせるためにグズグズに甘やかしてきたからな。
お前は、それを聞きだす事なんて出来るのか?」
「そうやな、そう言われたら佐久早君程まで、聞きだせてないけどなぁ…」
けどなんだ?宮侑との間に、何かが変わったのか?
それでも、俺には関係が無い話しだ。
沙耶が、誰よりも俺を呼ぶのは事実だから。