第5章 ふわりふわり揺れる思い
前みたいな体じゃない、私は…何も出来ない。
呟いた言葉を聞いた侑君の表情が、あの日の聖臣と重なった。
「このバカ!!ここ何階だと思っているんだよ!落ちたらどうすんだ。
何かあったのか?」
「…何もないよ…外の空気吸いたくて窓開けてただけだし、良い風が吹いてるから明日も晴れるかな?」
笑いながら嘘をつくのは、聖臣に悟れたくはないから…きっと、どんな些細な変化でも気づかれてしまう。
段々苦しくなって、食事を受け入れなくなって吐いてしまうことも、余計な事に時間を割かせてしまっていることも。
「何考えている?」
「沙耶こっちを見ろ!」
「何怒っているの?怒る事なんて何もないじゃない、どうして?」
こっちを見ろ!なんて強い口調で言ってくる時は、かなり怒っている証拠だ。
だから、聖臣と目を合わせるなんて出来ない。
きっとボロが出て、言ってしまいそうになる。
「何もないなら、俺の方に向けるだろう」
「聖臣…ベットに戻りたいから抱っこして欲しい」
聖臣は、何も言わずお姫様抱っこをして、ベットに優しく降ろしてくれる。
何かを言われる前に、布団に隠れて聖臣を見ないようにした。
「聖臣…私眠くなったから、もう家に帰って大丈夫だよ」
「ふざけんなよ、何が眠いだ!嘘つくな!辛いなら辛いって言えよ。
いつもは、甘えてくるのにお前最近どうしたんだ?」
「……」
「沙耶…」
今度は、優しく名前を呼んでくれる。
布団を捲られ、聖臣と目が合うと涙が零れた。
「ごめん…なさい…嘘ついてごめんなさい…。
ご飯食べれなくて、吐いてばっかりでこんな体が嫌・・・こんな事言ったら余計な心配をさせるから言えなくて」
「嘘つかれるよりいいよ…ちゃんと言って、沙耶のこと解っていたいから」
なんで理解したいの?前の私じゃない。
「私は、前とは違う…」
「違うって何が?」
「何もかもだよ!動かない体も記憶がないのも全てだよ」
「記憶がないって…知っていたのか?」
頷くと、涙が溢れて止まらなかった。
「あるはずの記憶がないって…実際、聖臣達と噛み合わない話とかあったでしょう?
だから、皆して部活の話しとかしてこなくなったから、もしかしたら私も関わってたのかなって」
一瞬驚いた顔をした聖臣だけど、すぐに冷静さを取り戻していた。