第5章 ふわりふわり揺れる思い
聖臣side
「沙耶」
優しく名を呼んでみれば、涙がぽろりと流れている。
泣かせるつもりもなく、困らせるつもりもないのにどうしたらいいのかわからず、咄嗟に抱き締めることしかできなかった。
「聖臣…ごめんなさい…。
こんな事…言うつもりなかったの…」
沙耶が、弱弱しくボソボソと耳元で話し始めた。
「聖臣が、先生達と病室から出て行った時…『聖臣』って呼んで手を伸ばしたんだけど、気づいてくれなくて…急に不安になった事思い出したの。
だからかな…変なこと言っちゃった。
聖臣も元也も侑君も治君も、みんな真剣に告白してくれたのに、今の私じゃ何も返せなくて…うまく言えないけど、自分が自分で無くなるようで怖いの…」
「何かを返そうとか、思わなくてもいい。
沙耶は、沙耶のままでいいよ。
ずっと笑顔でいて…いつもみたいに笑って」
泣き顔な笑顔で、笑ってくれた。
可愛いなって愛しいなって思う。
けど本当の笑顔は、太陽みたいに眩しくて綺麗なんだ。
まだ、気持ち的にも余裕のない沙耶にとっては、無理なのかもしれない。
だからって、諦めたわけじゃないし好きな気持ちも変えるつもりもない。
『泣き過ぎ、ウサギの目みたいだ』と言うと、クスクス笑ってくれた。
こう言う他愛のない笑顔が好きだ。
おでこにキスをして、まだ熱い沙耶が寝付くのを待ってから病室を後にした。
あれから、一週間が過ぎる。
熱は、一旦引いておかゆから食事をだんだん摂れるようになり、幾つかの検査を終えてから結果を待つ。
MRやCT等を受け、頭から微量の出血が見られるが、すぐどうこなるものではなかった。
体力をつけてきた沙耶は、手術することが決まりその日を迎える。
手術を受ける際に、頭から異常が現れれば即手術自体辞める事になり、特別なチームを組んで挑むことになった。
手術当日、あの一件があった以来、会わなかった宮兄弟が来ていた。
「おはようさん、佐久早君も古森君も早いね」
「おはよう、そっちこそ兵庫から来るの大変だったでしょう」
元也が、ニコニコとした表情で宮達と雑談をしている。
俺は、話す気がなく外の景色ばかりを見ていた。
「佐久早君、沙耶と話した?」
雑談から抜けて来た宮侑が、話かけてきた。