第1章 呼吸
聖臣side
『ハァ?病院って、なんだよ!それ!沙耶は、どうなの?怪我しているのか?』
「……」
『おい!聖臣?返事しろって!聞こえないのか?』
沈黙したまま、嫌な予感がして堪らない。
握り拳をぐっと力が入り、手の平から血が滲んできた。
『聖臣、冷静になれよ!沙耶も沙耶ママも大丈夫だ。
とにかく、沙耶に会いに行こう。
病院をメモしてるよな?今から行くから10分待て!』
返事も聞かずにガチャッと切れた音に、我を取り戻す。
ヨタヨタと歩きながら、ソファーに雪崩れ込んだ。
いつも隣にいる沙耶がいない。
目を閉じれば、沙耶の声が耳元に囁く。
甘くて可愛い声が、自分の名前を呼んでくれる。
『聖臣…』
呼ばれた気がして不意に起き上がると、沙耶が側にいるような錯覚に落ちた。
あれから数分後、弁護士の母親が帰宅し元也も合流。
母親は、携帯で誰かと話をしている。
それが、仕事なのか沙耶達の事故のことなのか分からない。
母親と目が合うと、何か知っているかのような感じがした。
けど、俺達には、何も言おうとはしない。
そんな2人を見てた元也が、『早く行こう』と俺の手を掴んだ。
さっき滲んだ手の平に痛みが走り、咄嗟に振り解いてしまった。
案の定、元也に手の平の出血がバレてしまい、手当をされながら説教をされ、やっと病院にたどり着いた。
看護婦に案内されたのは、病室ではなかった。
進むにつれて、心臓が逆流するぐらいドクドクいっている。
目の前に見えた先は、ICUの文字。
ガラス張りされた先をみれば、何人かの患者と看護婦や医師が慌ただしく動いている。
看護婦から中に入るのか聞かれると、言葉よりも体が先に動いていた。
細菌を持ち込まないように、防護服に着替え沙耶の前にたつ。
じっと眺めていると、若い医師が側に寄ってきた。
「君は、彼女の知り合いかい?」
「…はい…」
沈黙を破るように医師は、続けた。
「びっくりしただろう。でもねぇ、彼女は、生きてる!だから、希望を捨てないで。
私達も最善を尽くすつもりだ」
歳の割には、落ち着いた装いで力強い言葉だった。
「沙耶を宜しくお願いします…」
お辞儀をした途端、涙が溢れた。