第3章 目覚める瞳
聖臣side
「はぁ?なんで知ってるかって!沙耶も一緒に会ってるだろう」
「一緒?いつ?」
いつって、なんだこれ?沙耶に、違和感がある。
「元也も俺もお前も、この間のI.Hで会ってるよ」
「I.H?」
ドクドクと心臓が鳴って、苦しい。
この先を聞いていいのか悪いのか、わからなくなる。
「聖臣?どうしたの…」
不安に揺れる瞳に、次の言葉を考える。
「俺達は、夏のバレーボールのI.Hで優勝している。
沙耶もその場にいた」
嘘をついているわけでもないが、最小限の情報だけを伝えてみる。
「…そうなんだ?うちのバレー部って、そんなに強いんだ。
俺達ってことは、元也も聖臣もバレーやってたんだね。
すごい!! I.Hで、優勝なんて!あれ?でも、私もその場所にいたんだよね?
私…バレーなんてやってないのに…」
バレーをやっていない?
俺も元也もずっとバレーを沙耶と一緒にやってきたのに知らないって…。
予想以上に、こっちが困惑する。
沙耶自身、バレー自体を記憶から抹消されている感じだ。
あの違和感って、コレなのか?
「でも、会場にいたってことは、応援でもしてたのかな?
ごめんね、なんか記憶なくて」
「いや、いいんだ。
ちょっと疲れたろう?少し眠るか?」
頭を撫でながらも、平常心でいつものように言わないと、沙耶が混乱する。
「う~んン、そうだ…ね…。
なんだか眠くなっちゃ…う、聖臣のその触り…かた…気持ち…いい」
「いいよ、しばらく手も握ってるし頭も撫でてやるから、安心して眠って」
頷きながら眠る沙耶を見届けながら、溜息を一つつく。
この間、沙耶が目覚めた後の帰り際。
あの男に言われた言葉を思い出す。
『事故の記憶とそれに繋がる何かが失われ、それを何かの拍子に思い出すことが合った場合…沙耶の状況が、一変する』
険しい表情をしながら、思案する医師。
『何を失う?』
問いかける言葉に、不安がよぎる。
『…事故で負った代償と引き換えに、バレーに関する事の記憶の抹消とか…』
記憶の抹消…現実にその言葉通りなってしまった。
沙耶の中は、あんなに大好きだったバレーは存在しない。