第3章 目覚める瞳
聖臣side
大きなロビーに出ると、向こうから夜勤明けの医師とすれ違う。
「おはようさん、えらい早う来たな。
こっちは、明け方までの大手術で疲労困憊だ。
こんな朝早くからお前の顔なんて、見たくなかった」
「コッチもですよ…それってお互い様でしょう?」
寝てないせいか、いつもより嫌味全開で言い放たれるのも、朝からいい気分じゃない。
「どうだ?沙耶の様子は?」
「……」
静かなこの空間は、やけに空気を圧迫する。
「何だ?答えられない状況でも合ったか?」
全てを見通すように、細くなっていく瞳に囚われる。
「…沙耶は、事故の代償を負った…あんたの察しの通りだ」
「そうか…やはり、記憶の抹消が起きたか。
何が失われた?事故の記憶、それともバレーに関する記憶だろうな、今のところ…」
やっぱり、そう思っていたのか。
少なくとも、あの沙耶状態を見れば、バレーに関する記憶がなくなっている。
どこまで?考えることを拒否するように、拳に力がこもる。
あの日、アイツからカウンセリングも必要だと言われた事に、今は納得がいった。
「これから、沙耶がどう変わるのか、正直俺にも分からない。
少なくとも、前の沙耶とは違うだろう。
お前が、今の沙耶を受け入れられず手放すか、実物だな」
あっあぁ!!どう言う意味だ?
人をおちょくるのにも限界がある。
ふざけるな‼︎
「な〜に、怖い顔をしているの?」
「あんた、どう意味だ?」
「意味?そのままだけど?何にしても、お前じゃ無理だ」
「俺は…手放すつもりなんて無い。
沙耶は、俺が傍にいれば大丈夫だ」
強く拳を握りしめ、アイツを睨みつけた。
「なら、お手並拝見といこうじゃないか?
あっ!そうだっだ。
お前にも、カウンセリングの先生の名前を伝えとくよ。
名前は、南條香里だ。
ココと兵庫の姉妹病院の精神科に常駐している」
「南條?」
「あぁ、香里は、俺の妹だ。
何かあれば、連絡すればいい。
沙耶の事もお前らの事も、全て伝えてある」
渡された名刺を預かると、また来た道を戻り学校に向かった。