第3章 目覚める瞳
緊迫する病室内。
荒々しい空気の中、穏やかな声でそれは閑散する。
「まぁ~ちょっと二人共落ち着こうか?
そんな言葉でお互いに罵っていたら、子供達が不安になるよ。
海斗も良い大人なんだから、へそ曲げない。
彩ちゃんもそんなに怒った顔してると遥ちゃんが、びっくりして心配するよ」
すごいなぁ、聖臣のお父さんって。
いつもニコニコして穏やかな人。
でも心が強くて何事にも努力家なのは、そういうところ聖臣にそっくりかな。
「喧嘩…しないでくだ…さい。
お母さん…も事故に…遇ったんですよね…?
向うで眠って…いるの…お母さん?」
「そうだよ。沙耶ちゃんのお母さんだよ。
君もだけど、搬入された時はかなり切迫した状況だったけどね。
そこにいる海斗…南條先生に命を取留めたんだ。
でも、君のお母さんは、体の臓器のほとんどが壊滅的で、現状は厳しい状況だ。
けどね、僕達は、諦めたわけじゃない。
臓器移植を含めて、色々な手術の仕方があるから、遥ちゃんを助けるための準備をしているんだよ。
少し時間がかかるかも知れないけど、最善を尽くすつもりでいる。
そうだろう海斗?」
当たり前だと言わんばかりに、頷く先生。
「心配かも知れないけど、このアホでも一応出来る先生だから、遥を託すことになるわ。
沙耶ちゃんのこれからの事も、考えないいけないわね」
少し悲しげな顔で言うおばさんに、違和感を覚えながらゆっくり頷く。
「今は、ICUにいるが、これから普通病棟に移される。
ちゃんとご飯を食べて、体力を戻すところから始めよう。
君の場合、事故怪我で右腕右足の腱が断絶状態だ。
その手術をするためには、体力を回復しないといけない。
手術後は、リハビリをして学校に行けるようになろうな」
大きな手で撫でられると、少しだけ安心できだ。
「葵ちゃんもくるのか? 」
葵ちゃん?
「あぁ、さっき電話したら、わざわざ兵庫からまた来るらしいぞ。
まぁ、アイツらも来るから沙耶も嬉しいじゃないの?」
アイツら?兵庫?
お母さんの実家があるところだよね。
もしかしたら、宮おばさんと双子の兄弟の事?
「宮おばさん…来るの?侑君…治君も?」
そうだよとおじさんは笑顔で言った隣で、この時の不機嫌な顔した聖臣を知らなかった。