第7章 文化祭② *
聖臣side
甘く香る沙耶の匂い。
キスを重ねる度に広がり、肺の中に吸い込むと安心感と幸福感に包まれる。
世間で言う【神様のギフト】とそう言われるものには、疑問と不信感があった。
それは、単純に今まで出会ってこなかったのかもしれない。
いや、そうじゃない…気にもしていなかった。
俺に向ける優しさも笑顔も、怒りや悲しみも向けられる全ての感情は、当たり前でそれが日常だったから。
あの事故があって以来、傍にいるのは当たり前じゃないと気付かされた。
当然やってきた失うことの恐怖。
俺の中で、身をもって体感し理解したからだ。
沙耶を抱きしめては、体が温かいか呼吸をしているのかを一番近くに感じて実感する日々。
沙耶は、俺の傍にいる『生きてる』って感じて、納得するまで何度も抱きしめる。
病院で眠り続けていた時は、沙耶に触れるこの行為自体、単純に生死の確認みたいなものだろうと自己完結していた。
沙耶が眠っている時は、今だにそれを無意識にやってしまう事は、沙耶は知らない。
最近キスする事も増えたのは、そのせいなんだろうか。
離された唇から銀糸が繋いでいき、沙耶の頬も仄かにピンク色に染る。
はぁっと息を切らす沙耶は、艶っぽくそれでいて扇情的だ。
いつからそんな顔するようになった?本当に困る。
「沙耶、俺朝練あるから早めに出ないと遅刻する。
着替えられそうか?」
「うん…着替える」
「そう、目覚めたみたいだな」
「もう、心臓に悪い…なんか体熱いし」
「はぁーホントお前は!そんな顔して母さん達に会うなよ」
鼻を摘まみクスっと笑って見せる。
沙耶は、真っ赤になった顔で俺の胸を軽くポコポコ叩いてくる。
「聖臣、沙耶ちゃん~ご飯よー!」
「母さんが呼んでる。着替えて顔洗っておいで」
沙耶の頭を人撫でしたら、そのまま自室も戻り制服に着替えた。
隣からバタバタと沙耶の動く音と、小言が聞こえてきていつもの日常が戻ってきたと思えた。