第7章 文化祭② *
元也side
勝手知ったる仲なわけで、部屋に入っても何も言われない。
お互い性格も考え方も違うし、理解していたつもりだった。
だから、気づかなかった。
聖臣の気持ちも、変わっていく沙耶の気持ちも。
夢中になりながらあの本を読んでいると、もう21時近くになっている。
いい加減、聖臣だって風呂あがってるよな。
「聖臣…」
呼んでも返事がないって事は、沙耶の部屋にでも行ってるのか。
佐久早家一同、沙耶達を大事にしている。
ベランダの壁を取り外した時もそうだ。
最初見た時、マジか!と思ったぐらい。
特に征兄と聖臣は、沙耶の事が心配で労力と頭を行使した結果、あぁなったらしい。
沙耶は、そんな二人を傍で幸せそうに笑っていたから、それでよかったと思える。
沙耶の部屋から、聖臣の後姿を捕らえる。
ノックする前に呼ぼうとしたが、聖臣達の話声が聞こえてきて、咄嗟に手が引っ込む。
呼び出せずにいると沙耶が、聖臣の髪や体に触れていく。
いつもと違う沙耶の仕草に、ドキッとしてしまう。
「聖臣の体、冷えちゃったね…。
私もお風呂入ろうと思ってたから、一緒にお風呂入って欲しいんだけど…ダメかな…?」
上目使いで、沙耶からおねだりしているように見える。
何?あの二人、付き合ってんの?
「わかった!風呂の準備してくるから待ってろ。
元也もまだ、部屋にいるかもしれないから、帰れって言っておく」
「あっ!待ってそうだよね、元也いるもんね。
私、何言ってるんだろう!小さな子供みたいに、一緒にお風呂入ろうなんて…恥ずかしいね」
聖臣は、可愛く笑う沙耶の髪をそっと撫でて、キスをしている。
「なんで?朝も一緒に入ったじゃん、今さらだろう?
それにもう沙耶の体は、どこに触れたら可愛く鳴いてくれるか、全部知ってる。」
「あっ、もう聖臣!!言わないでって、恥ずかしいだから」
はぁ?何それ?どこに触れたら鳴くって、なんだよ。
二人の空気は、恋人そのものだ。
俺が、入る余地なんてない。
動けない体と、ついていかない心が悲鳴を上げる。
「うんんっ、はぁっ」
沙耶の色っぽい声が、より一層心に黒く塗り潰されていくようだった。