第1章 シュガーリィは魔法仕掛け
「あの、お忙しいところすみません先生……」
「どうした仔犬。また何か面倒ごとでも起こしたのか?」
「あ、いえ。面倒ごとというか……いや、ある意味面倒ごとかもしれないんですが……」
ユウは両手を後ろに回し、指絡ませ遊ばせる。
緊張した時や何かを誤魔化す時の彼女の癖だった。
何を隠そうユウはクルーウェルが苦手であった。怖いからというのは勿論あるが、それだけではなく、顔が良すぎるしなおかつ色気がありすぎるのが主な理由だ。
今まで彼女の周りにはこんなにも容姿の整った人間はいなかった為、耐性がなくクルーウェルと目を合わせることも出来ないでいた。
この学園の人間は総じて顔面偏差値が高いが、エースやデュースといった所謂"男子"と呼ばれる年齢の男たちは容姿の良さよりも子供っぽさが目立つ為クルーウェルに抱えるような問題はない。
「あの、昨日魔法薬学の授業で薬品を被ったせいなのか……分からないんですけど……」
うろうろと視線を彷徨わせるユウ。
クルーウェルは小テストへと向けていた視線を今度は彼女へと向けた。
恐ろしく顔の整った男にジッと見つめられ、ユウは更に居心地が悪くなり、クルーウェルの磨き上げられた靴を見つめることで何とか視線を安定させる。
「昨日寮に戻ってから、左手の小指に赤い糸が結んでありまして……この糸、私以外の人には見えないみたいなんです」
ユウは後ろで遊ばせていた手を身体の前に持ってきて、今もなお自分の目には映る赤い糸が付いた左手の小指を右手で触った。
糸が付いている感覚も触れる感覚もない。しかしユウの目にはその糸が長く伸びているのが見えるのだ。