第15章 引き合うさびしさの引力
鏡からフロイドの声が聞こえてから2年が経った。
彼女は大学3年生になっており、そろそろ就職を考えなければならない時期に差し掛かっていた。
例の彼とは別れてしまっていた。
それ以降もユウが誰かと付き合うことはなく、友人ももう口を出してはこなかった。
ある日のこと。
なんの変哲もないただの平日のこと。
彼女がいつも通り化粧をし、大学へ行く支度を整えていると、切れて短くなっていた赤い糸が伸びていた。
そしてその糸はユウが座る鏡台の鏡の中へと続いている。
ドクンッ
ユウの心臓が今までにないくらい大きく鳴った。
恐る恐る糸が付いている方の手で鏡に触れる。
すると________
ピカァッ
なんの変哲もないただの鏡が、眩いばかりの光を放った。
母が言っていた。
どうやってツイステッドワンダーランドに行くかと聞いた時、母はわかるわけがないと笑っていたけど、その日の晩に「昔からの言い伝えで、その世界に繋がりのある物を持ってると呼ばれやすいって聞いたことがあるわ」と。
繋がりのある物。
スマホと、そして赤い糸。
向こうの世界に、ツイステッドワンダーランドに行ける。
ユウは咄嗟に鏡台の上に転がる口紅を手に取った。
そして台の上に家族に向けてのメッセージを残すと、口紅から手を離し、鏡の中へ飛び込んだ。
小指が引っ張られる感覚。
あまりの光に目を開けることができず、しかし赤い糸が彼女を導いていた。
辺りが暗くなる。
ユウは閉じていた目を開けた。
今度は真っ暗で何も見えない。しかし赤い糸だけはしっかりと見ることが出来た。
糸がぐいぐいと彼女を引っ張る。
ユウは糸を辿ってゆっくりと足を進めた。
そして暫く歩いた時、「小エビちゃん」とフロイドの声が聞こえた。
ユウは糸を辿って走り出す。
段々と視界が明るくなり、そして____________
「こんにちは。フロイド先輩」
鏡から出たユウは驚くフロイドを見て、彼に会った時に必ず言うセリフと眩いばかりの笑顔を向ける。
ユウより少し幼く見えるフロイドは、ぽろりと涙を一粒流すと、いつものように尖った歯を覗かせながら笑った。
「お帰り、小エビちゃん」
引き合うさびしさの引力 完