第7章 はだかのままのヴィナス
一方アズールはまだ飛べていない。
箒に跨りぴょんぴょんとジャンプするだけで、ジャミルがコツを教えようとするがまったく聞く耳を持たないでいた。
「だいたい僕はまだ、陸を歩くようになってから1年とちょっとしか経っていないんです。
歩いているだけでも褒めてほしいくらいですよ!」
「取り敢えず、箒にぶら下がってないで一度降りろ」
「箒が言うことを聞きません」
走っているユウの耳にも入ってきたその会話に、他人事ながら大丈夫かと心配になる。
チラリと視線を向けると、アズールは所謂豚の丸焼きのように箒にぶら下がり、しかしその表情はいつものすまし顔だった。
あの状況であんな冷静でいられるなんて。と、ユウは謎にアズールを尊敬した。
ユウがなんとか10周を終えた頃も、アズールは相変わらずの様子だった。
「素直に俺のアドバイスを聞いていれば"あの"カリムでも飛べた。何度も言わせないでくれ!」
ジャミルの悲痛な声がグラウンドに響く。
補習内容を終えたユウはもう上がっていいのだが、あの2人を見ていると自分だけ帰ってしまっていいものなのかと不安になる。
ユウが居たところでどうすることもできない事は彼女自身分かってはいるのだが、これは気持ちの問題だ。