第3章 コバルトブルーの怪物を飼っている 2
「何、小エビちゃん。オレのこと好きじゃないんだ」
「は、はい……恋愛的な意味では」
「ははっ、何それ……」
フロイドが顔を伏せる。
ターコイズ色の髪がサラリと彼の顔にかかり表情が窺えない。
フロイドが顔を伏せて数秒後、彼がゆらりと顔を上げた。
「笑えない」
フロイドの目が見開かれ、金色とオリーブ色の目が鈍く光っている。
フロイドが怒っている。
ユウはすぐに察知した。しかし何故怒っているかはわからない。
ユウは何か言おうと口を開こうとするが、すぐにやめた。今は何を言ってもダメな気がしたのだ。
ユウは自分の下唇を噛み締める。そうしないと恐怖で歯がガチガチとなってしまうような気がした。
フロイドから目を反らしたい。しかし、あの鈍く光る目は反らすことを許さないとでもいうかのような圧力を持っていた。
いったいどのくらいそうしていただろうか。
「チッ」とひとつ舌打ちをしたフロイドは立ち上がる。
座りながらその様子を見たユウには、突然目の前に高い塔でも建ったかのようだった。
フロイドはそのままユウには一切視線を向けず、ポケットから取り出した飴を口に放り込みガリッと大きな音を立てて噛み砕くと、そのまま何処かへ行ってしまった。
ポツンと、1人残されたユウ。
彼女はフロイドの姿が見えなくなると、その場に倒れ込んだ。
芝生がちくちくと頬を撫でる。
青っぽい香りが鼻腔を擽り、重たく澱んだ腹の奥にスッと染みた。
ユウは氷のような青く冷ややかな空を見つめながら、大きくも小さくもない声でひとつ呟いた。
「意味がわからない」