第2章 コバルトブルーの怪物を飼っている
ユウは自分が座っていたソファの隅に置いたトレーを手に持つ。
ユウが立ち上がった事で、ジャミルは彼女の背にそそくさと隠れた。
ブンブンと羽音をたてながら2人の近くを飛び回る虫。ユウはそれに向かって持っていたトレーを振り上げると、虫が近づいてきたタイミングを見計らってフルスイングした。
ゴッという音と共にトレーに小さな振動が伝わる。
トレーを下ろし床を見ると、ピクピクと手足を動かしている虫が。ユウは暫くその様子を見つめ、手足の動きが止まったことを確認すると後ろを振り返った。
「仕留めましたよ先輩」
嬉々としてそうジャミルに伝えるユウ。
ジャミルは「あ……あぁ、そうだな。ありがとう」と何度もうなずいた。
これがユウがジャミルを好きなったきっかけである。
いったい今までのやり取りのどこで好きになったのかとほとんどの人が疑問に思うだろうが、ユウはいかんせんギャップというのもに弱かった。
普段落ち着いて、カリムの世話を焼いているジャミル。ホリデーが明け多少口が悪くなった彼だが、そんなジャミルがたかが虫如きに大絶叫したのだ。
ユウはその姿に不覚にもきゅんとした。
不良が雨の日の中子犬や子猫に語りかける姿にときめく様に、ユウは虫に絶叫し飛び上がる姿にときめいたのだった。
こうしてNRCの紅一点は、ジャミル・バイパーに恋をしたのである。