第2章 コバルトブルーの怪物を飼っている
「ところで、私に何か用ですか?」
ユウが首を傾げると、ジャミルはあぁ、そうだった。と、自分の制服のポケットからシャーペンを取り出しユウに差し出した。
「これ、君のだろう?昨日うちの寮に忘れていったぞ」
「あっ、本当だ。全然気づきませんでした……」
届けてくださりありがとうございます。と、ユウは頭を下げる。
そしてわざわざご足労いただいたのに何もお礼をせずに帰すわけにはいかないと、背中を向け帰ろうとするジャミルを慌てて呼び止めた。
「あ、あの……よければ上がってください。丁度トレイ先輩から頂いたタルトがあるんです」
○
談話室までジャミルを案内したユウは、そこにあるソファに座るよう彼を促す。
寮に上がってくれと言った時、ジャミルは「君、さっき俺が言ったことを覚えていないのか?」と眉を顰めた。しかしお礼ですからと言えば少し考える仕草をするも、それ以上何かを言うことなく寮へと上がった。
絢爛豪華なスカラビア寮に比べれば、オンボロ寮は少し大きめの鶏小屋のように思えるだろう。
ユウはティーパックで淹れた紅茶を「熱いので気をつけてください」と、ジャミルの前に置いた後、「この寮、凄く年季がありますよね」と自虐気味に笑った。
「趣があっていいんじゃないか?」
ティーカップを持ち上げながらそう言うジャミルに、ユウはまた笑う。
「それってフォローですか?」
「いや、本当にそう思ってるさ」
ジャミルとはそこまで関わったことがないユウだが、それでも彼は嘘をついている時ほど笑顔を浮かべるということを彼女は知っていた。
にこりと笑うジャミルにユウは「じゃあ、そういうことにしておきます」と肩を竦めた。