第2章 コバルトブルーの怪物を飼っている
ユウがその人物を好きになったのは、その人物が彼女の忘れ物を届けにオンボロ寮へと訪れた時だった。
その人物が訪れる前日に、ユウはカリムにスカラビア寮での宴に招待された。ウィンターホリデーの時みたく豪勢な夕食の後、カリムにグリムと共に魔法の絨毯に乗せられ僅かな時間だが空の旅を楽しんだ。
正確にその時の状況を説明すると、安全バーも命綱もない絶叫マシーンも真っ青な安全性皆無の絨毯で空を飛ぶということにユウは顔を真っ青にしていた。それはホリデーの時も同様で、せっかく国宝級のお宝に乗せて貰ったのにギャーギャーと怖がっていては失礼だと思った彼女は、何とか夜空に輝く星々を見ることで恐怖を誤魔化していた。そして絶対に下を見るものかとひたすらに星を眺めるユウを、カリムは隣に座りながらそんなに星が好きなのか。と、微笑ましく思っていた。
絨毯での空の旅の途中、カリムの「そろそろ戻るか!あんまり遅くなるとジャミルに怒られるし」という言葉にユウはパッと目を輝かせた。
あぁ、やっと降りれる!そう思ったユウだが、グリムが「えぇ!もっと乗ってたいんだゾ!」という声にスンッと表情をなくした。
「んーでもなぁ……」
珍しく渋るカリム。
その様子を見て、これは押せばいけるのでは?とユウはすぐさま説得の為口を開いた。
勿論この空の旅を終わらせる説得だ。
「いえ、戻りましょうカリム先輩。明日も学校がありますし。私もそろそろ寮に戻って休みたいと思っていたところです」
また余計なことを言いかねないグリムの口を手で覆いながらそう言えば、カリムも「そうだな!」と笑顔で頷く。
「もう遅いもんな!あ、流石にこんな遅い時間に女子を一人で帰らせるわけにはいかないから、絨毯で寮まで送ってやるよ!」
「い、いえ……グリムもいますし大丈夫ですよ」
「よーし、絨毯!オンボロ寮まで頼む!」
カリムは人の話を聞かない。
そんなことユウにだって分かっていたが、こればかりは何で聞いてくれないの。と、カリムを恨めしく思わずにはいられなかった。