第13章 夢みていたのおとぎ話の世界
それから始まったフロイドとアズールの口合戦。
はじめは受け流していたアズールだったが、エレメンタリースクール時代の話を持ち出されると、先ほどまでの落ち着きは何処へ行ったのか、男子高校生らしい一面が出てきて、今では「アホ」だの「バカ」だの低レベルな悪口の言い合いになっている。
ジェイドは自分で作ったカクテルを飲みながら高みの見物をしていた。
彼らの口喧嘩は、言葉の中に信頼を感じた。
言っていることはただの悪口なのだが、聞いていても思わずクスリと笑ってしまうような雰囲気があった。
昔、ユウが中学生の時、クラスの男子生徒2人が取っ組み合いの喧嘩をしたことがある。
口喧嘩から、取っ組み合いのそれに変わった喧嘩は側から見ていてもとても怖かった。
こんな子供のような悪口を言うフロイドをユウは初めて見た。
彼が怒っている時は大抵洒落にならないことが多いのだ。
ユウは一度、ジェイドやアズールの話をするフロイドの表情が好きだと思ったことがある。
そして今回、彼らといることで見れた新しいフロイドの一面を、ユウはやっぱり好きだと思った。
「どうしました?ユウさん」
彼らの口喧嘩を穏やかそうに見ていたユウにジェイドが声をかける。
ユウはジェイドに視線を向けると、「ふふっ」と口に手を当て笑った。
「可愛らしいなと思って」
「それは、アズールがですか?それとも、フロイドですか?」
「……内緒です」
人差し指を立てて口元に当て、ひっそりと笑うユウはまるで物語に出てくる悪女のような魅力があった。
ジェイドが、「それは残念だ」とわざとらしく肩を落とす。
ユウはそれにクスクスと笑い、「ねぇ、ジェイド先輩」とフロイドとアズールの方を見た。
「私、今この瞬間が凄く楽しいです。
きっと、一生忘れることはないと思います」
淡い照明の光に照らされキラキラとユウの瞳が輝く。
「随分と大袈裟ですね」
ジェイドは何処か遠くを見ているような彼女を少し不思議に思った。