第11章 月を見てる君を見ていた
「先輩っ!待ってください!」
ユウがそう声を張り上げた時、
「どうしたんだ?」
ジャミルが飲み物を持って帰ってきた。
ユウの声に一瞬足を止めたフロイドだったが、ジャミルの声を聞くと足早に去っていく。
ユウはそれを泣きそうな顔で見つめ、そしてジャミルを見た。
「ジャミル先輩っ……私………」
ジャミルはユウを見て、そして去っていくフロイドの背中を見た。
そして「あぁ……そういうことか」と悟る。
自分のことを好きなのだと思っていた彼女は、フロイドのことが________
ジャミルはユウに動揺が悟られないよう、極めて慎重に声を出した。
「あぁ、分かっているさ。
早く追いかけるといい」
ジャミルのその言葉を聞くと、ユウはさらに泣きそうな顔になり「すみません」と謝ると、ドレスの裾を掴み、そして走って行った。
今ジャミルが手にグラスを持っていなければ、きっと彼女の手を掴んで引き止めていた。
そう矛盾した行動をしてしまいそうになるくらい、彼はいつの間にかユウのことが好きだった。
「ハハッ……自覚してすぐに失恋か……」
そう小さく溢し、自傷気味なその笑い声は流れるバラードにかき消された。
その恋を、もっと早く自覚していればもしかしたら……。