第9章 私のための無垢なドレス 2
「ではフロイドはユウさんを誘うのですか?」
唐突に言われたその言葉は、しかし違和感なく会話に溶け込んだ。
「誘う?」
「ダンスパーティーですよ」
「あぁ」とフロイドは唸る。
フロイドはダンスパーティーがとてつもなく憂鬱だった。
ダンスは好きだけど、ダンスの種類が違う。
パーティーで踊るのはゆったりとしたワルツ。しかもそれは人とほぼ密着して踊るもので、ベタベタとされるのが嫌いなフロイドは考えるだけで鳥肌が立ちそうだった。
しかし、好きな人と踊れるというのなら話は別。むしろパーティー中ずっと踊っててもいいくらいだ。だって合法的にユウと密着できるのだから。
「誘うつもりぃ」
「では、早めの方がいいですよ。彼女を誘おうと思っている人は多いみたいなので」
ダンスパーティーのお誘いは、はじめのダンスの授業があったその日からと決まっている。正確に言うと、授業が終わったその瞬間から。
なのでダンスの授業がある日は全学年同じで、まだ授業をやっていないこの期間は皆んな好みの相手を探すだけの期間となっていた。
ジェイドの言う通り、最近ユウはモテている。ついこの前も、彼女が荷物を両手に抱え運んでいると一人の男子生徒が、「重たいだろ?持つよ」とユウの手からそれを奪い取った。それは今までにはないことで、彼女の手助けをしてくれる人は大抵いつも一緒にいる2人か、ハーツラビュルのリドルとトレイ、そしてケイトくらいだ。いや、スカラビアのあの2人も手伝うかもしれない。
まぁ、ともかく以前であれば面倒ごとをわざわざ自分から手伝おうとする生徒なんて居なかったのだ。
その時は、"偶然"にも居合わせたフロイドがすぐ様2人の間に割って入り男を追い払っていた。
フロイドはユウがダンスパーティーで他の男と踊るなど、考えただけでもイライラした。
あの白く小さな手を握り、細い腰を優しく抱くのは自分でなくてはならない。
そうではければフロイドはパーティーを滅茶苦茶にする自信があった。
「そんな事分かってっし。秒で誘うわ」
つっけんどんに言うフロイドにジェイドはいつもの笑みを浮かべる。
「受けてもらえるといいですね」