第1章 Last summer vacation
『叔母さん、今までありがとう』
「…元気でね。たまには帰ってきてね。しっかり食べてね。魔法をたくさん勉強してね」
『うん。頑張るね』
力強く抱きしめると優しい匂いが全身を包む。耳元で鼻をすする音が聞こえる。どうして叔母さんはこんなに泣いているのだろうか。確かに別れではあるが、一生会えなくなるわけではないのに。離れる寸前で「守れなくてごめんね」と聞こえた気がした。
手ぶらで家を出て、ハグリッドの後ろをついて歩く。まっくらな街並みは人気がなく、先程までうるさい程だった虫の鳴き声も聞こえない。
『ねえ、ハグリッド。ホグワーツまでどうやって行くの?』
「俺のバイクだ。正確にゃまだホグワーツには行かねえ。先におまえさんを降ろしてもう一人迎えに行かにゃならんくてな」
バイクで来たのか。ハグリッドがバイクに乗って道路を走っていたら、きっと注目されるだろうな。
そんなことを考えていると、誰も来たことの無いような空き地に着いた。そこにはバイクがあり、これがハグリッドのものということは一目瞭然だ。
サイドカーに乗り、シートベルトをする。サイドカーに乗ったことは無い。アトラクションに乗るようなワクワク感があり、早く運転して欲しいと感じる。バイクに跨るハグリッドを見ると、ゴーグルを着けていた。
「おまえさんも着けちょれ」
ハグリッドのより小さめのゴーグルを受け取り、装着しているとバイクはゆっくり動き出した。空き地から道路に出て、スピードを上げて走っていく。
夏の夜の風は心地よい。サイドカーのフロントガラスを握りしめ、全身に風を受ける。絶叫系のアトラクションが好きな私にとって、この感覚もたまらない。
『ハグリッド。信号赤になるよ』
目の前の交差点で信号が黄色く点灯している。もちろん車も走っていて、このまま行けば事故を免れない。
エンジンと風の音が邪魔していて、私の声が届いていないのか、ハグリッドはスピードを緩める素振りはない。むしろ、さらにスピードをあげている。
『ちょ、ハグリッド!!前!赤信号!!』
私の叫びも虚しく、加速していくバイク。サイドカーから飛び降りるだなんて勇気はなく、大きな衝撃を覚悟して全身に力を込める。