第1章 Last summer vacation
『…っ!!……ん?え、え!?』
予想していた衝撃のかわりにあったのは浮遊感。先程までおしりあったアスファルトの上を走る感覚はない。目の前に広がるのはキラキラ光る街の光と、遠くに見える山や空。
『ハグリッド…も、もしかして』
「そりゃロンドンに行くんなら、空から行くのが一番はえぇ」
あたかも常識のように話すハグリッドだが、私にとっては大事だ。それに、今から行くのはロンドンだということにも驚きだ。私の記憶では、海外なんて行ったことないが、パスポートは要らないのだろうか。そんなことを考えていると、だんだんとこの状況にも慣れてきて、景色を楽しめる余裕が出来てきた。大丈夫、シートベルトしたから落ちる心配はない、はず。
『すごい。魔法って素敵…』
暫くすると海に出たようで、街の光は見えなくなり、周り中暗闇と霧に包まれた。霧というかこれは雲だろうか。日本の季節では夏とはいえ、夜、ましてや上空だとさすがに寒い。半袖から出ている腕をさすっていると、それに気づいたハグリッドが口を開いた。
「おまえさんの足元に毛布があるはずだ。それをかぶって寝ちょれ。まだまだ先は長ぇぞ」
ハグリッドの言うとおり急いで毛布を取り、肩から羽織る。じんわりとしか温もりが全身をつつみ、ほっとする。こんな状況で寝られるのだろうか。
周りを見ても相変わらず黒と紺だけで、ときどき霞が横切るくらいだ。霧の中をただ走っているようだが、ハグリッドにはどこの方角に進んでいるのかが分かっているようで、握るハンドルには迷いがない。
毛布の温かさに慣れてきた頃、瞼が重くなってきて、ゆっくりと瞬きを数回したあと、私の記憶はそこで途切れた。
寝返りを打つと、窓から差し込む日差しを受け、だんだんと意識が上昇する。その眩しさから逃げるようにもう一度寝返りを打ち、辺りを見渡す。ここはどこだろうか。ハグリッドのバイクで空中ドライブをしていて、眠ってしまったところまでは記憶がある。もしかして、やっぱり夢だったのだろうか。だとしたら本当にここはどこだろうか。
ベットから足をおろし、靴を履く。服はそのままで、少し汗をかいていて気持ち悪い。部屋の中にシャワールームを見つけ、未だにここがどこだかわからないが、迷うことなく、Tシャツを脱いだ。