第5章 Happy Holiday
「…それってどういう意味?」
突然立ち止まるハリー。透明マントから出ないようにするため、自然と私の足も止まる。同じ方向を見ていたが、今ハリーの視線はこちらに向いている。ハリーの質問の意図が分からず、『え?』と聞き返すと、「なんでもない」と焦ったように言い、再び足を動かした。
『ここね』
閲覧禁止の割には簡易的な鍵だ。木製の扉を押し開ける。周りに人がいないのを確認して、マントを一旦脱ぐ。二手、と言っても同じ棚の本を2人で探す。背表紙にニコラス・フラメル、と記載されているものは無さそうだ。やはり本を開いて確認するしかないようだ。
手鏡を置いてどの本から調べようか、人差し指で背表紙を撫でる。鎖がジャラジャラと小さく鳴る。ふと、横目で鏡を見ると、そこには見覚えのある顔が映っていた。鏡をもっと近くで見ようとしたとき、ハリーが開いた本が叫び出した。
「誰だ?」
急いで手鏡をとり、ハリーと一緒にマントを羽織る。その拍子にランプが落ちて割れてしまったが、回収している暇はない。
マントの中で鏡を見る。そこに映っているのは、この声の主──フィルチさんだった。声を殺して隣にいるハリーの肩を叩く。鏡を見せると、うんうんと頷いた。息を殺したまま、マントに身を潜める。目の前を歩くフィルチさんはこちらに気づくことなく、素通りして行った。もう鏡には何も映っていない。
図書館を出て急いで寮に戻ろうとした時、曲がり角で2人の先生がなにやら揉めていた。スネイプ先生とクィレル先生だ。急いで離れなくてはいけないのに、どうも気になってしまう。
マントの中から様子を伺っていると、スネイプ先生が私たちの気配を察したのか、こちらを向いた。慌てて口元を手で抑える。ゆっくりと後ろに下がり、距離をとる。スネイプ先生の伸ばした手は届かなかった。
「先生がた。こんな物が閲覧禁止のところに。まだ熱い。生徒が入ったんです」
ランプを見つけたフィルチさんのおかげで、先生たちは私たちを探しに図書館へ姿を消した。今のうちにここを離れようと、近くの扉を開いた。
『…見つかるかと思った。ドキドキしたね』
もう大丈夫だとは思うが小声で話す。胸に手を当てる私を見て、ハリーが「そういう意味ね」と小さく呟いた。