第3章 White encounter
ハリーの前を歩く人たちは、私たちと同じようにカートを引いている。もしかして行先は同じなのだろうか。期待してついて行く。
彼らが立ち止まったと同時にカートを止める。すると、1人の青年がホームの壁に向かって勢いよく走り出し、ぶつかると思ったその瞬間、壁の中へと姿を消した。思わずハリーと目が合う。驚いてハリーと目が合うのはこれで何度目だろうか。
続いて双子の青年が壁の中へ消えた時、ハリーが思い切って優しそうな女性に声をかけた。見た目通り優しい女性は、親切にホームの行き方を教えてくれた。教えてくれたのはいいのだが、行き方は見たまんまで壁に向かって走るだけらしい。
「後でね、」
『う、うん』
先にカートを押したのはハリーだった。ドキドキしながら見守っていたが、ハリーは無事に壁の中へと消えていった。本当に無事に、なのだろうか。
「次はあなたの番ね」
『は、はい』
「頑張って」
大丈夫、向こうにハリーがいる。意を決して突き進む。ハリーほどでは無いが、自分の中ではまあまあスピードが出ていた。寸前で目を細めるが、レンガの壁はするりと抜けて、そこには蒸気機関車を見つめるハリーがいた。
なんとか空いているコンパートメントを見つけ、腰を下ろす。ふぅ、と息をつくと同時に汽車がゆっくりと動き出した。
やっと落ち着けたような気がする。ハグリッドが家に来てから、驚きの連続だ。
正面に座るハリーと他愛もない話をする。最初ハグリッドが来た時は怖すぎてフォークを握ったこと、フクロウが手紙を持ってきたこと、ゴミ箱が勝手に動いたこと。ハリーは僕も同じようなことがあったと話した。
「爬虫類館に行ったら、僕の言葉が蛇に伝わったんだ」
『ええ!ハリー動物と話せるの?』
「僕もよくわかんない。でも、その後ガラスがぱっと消えて、中にいた蛇がお礼を言って逃げていったんだ」
『へぇ〜!その親戚のダドリーって人もびっ…』
びっくりしたでしょうね、と続けたかった言葉が途切れる。心配するハリーの声が聞こえるが、私は彼と目が離せない。まさに蛇に睨まれた蛙。コンパートメントの上に、真っ白い蛇が優雅に這っていたのだ。
『…蛇の恩返しかな?』
ようやく言えた言葉はそれだった。ハリーが私の視線の先を見て、状況を把握する。
「あの時の蛇は白くなかったよ」