第1章 蘇れ
「ちょっとからかってやろうと思って声かけたけど、色々と予想を超えてたね」
エースは怒っていても可愛らしいグリムを見下ろして、あっはは!と笑い、おそらく、可愛げなど微塵もない般若のような顔をしている私を見て、ぎょっとした。
「んじゃ、オレは君たちと違って授業あるんで!せいぜい掃除頑張ってね、おふたりさん♪」
「コイツ〜!言わせておけば!もう怒ったゾ!」
ふなぁ〜!!と雄叫び、グリムがエースに炎魔法を投げつけた。
激昂している小動物をなだめようと、『どう、どう』と二人の間に割って入るが、グリムは攻撃をやめようとしない。
「くらえ!」
『え?ちょっと!』
目の前に、炎撃が迫ってくる。
「うわっ!っと、危ねえ!」
エースは初対面ながら、私が魔法を使えないことを瞬発的に思い出してくれたのか、私の片手を掴み、私の肩をグッと押して、大きく横へ避けさせてくれた。
彼に抱きかかえられるような体勢で、私はグリムの青い炎の熱を背に感じ、顔を青ざめさせた。
私の反応を見ていたエースは、背後から炎魔法を投げつけられても飄々としていたその顔に苛立ちを滲ませ、グリムへと向き直った。
「なにすんだよ!」
「オレ様を馬鹿にするからだ!その爆発頭をもっと爆発させてやるんだゾ!」
「爆発頭ぁ〜?」
グリムの言葉にカチンときたのか、エースはゆっくりと私の身体から両腕を離し、手袋をしていない右手で、左の胸ポケットに挿していた、グリップに宝石のような装飾がついた赤いペンを取り出した。
そして、そのペン先をグリムに向けた。
「へ〜ぇ、オレとやろうなんて良い度胸じゃん。そっちこそ、全身チリチリのトイプードルにしてやる!」
「ふななななな〜!!」
ボンボンと青く発火し、炎撃を投げつけてくるグリムに対し、エースはペン先をその炎の塊に向けて、突風を発生させる。
向かい風に煽られた炎が逆方向に戻ってきたのを見て、グリムが小さく吠え、飛び退いた。
「コイツ、魔法で風をビュンビュン吹かせてくる!オレ様の炎が曲がっちまうんだゾ!」
『風を操る魔法もあるんだ…』
「おやおや〜?さっきまで人の話も聞かず、掃除に夢中だった誰かさんもようやくオレに興味示した?まぁ、オレっつーよりは」
この風魔法か!とエースがペン先を大きく振り、またグリムの炎の軌道を変えた。