第2章 差し出せ
『上級生でしょうか?』
「あ、オレはデュースちゃんたちの先輩で、3年のケイト・ダイヤモンドくんでーす。ケイトくんって呼んでね。けーくん♡でもいいよ」
よろよろ〜。
気が抜けるようなシメの言葉を待ってから、私は本題に移ろうとする。
『けーくん、はじめまして。寮長にエースを会わせてほしいんですけど』
「わぁ、躊躇いない!さてはカオルちゃん、百戦錬磨だね!?あ、君オンボロ寮の監督生になったコだよね?よくあんなとこ住めるね!」
『これから住みやすくします』
「暗くてマジカメ映え最悪ってカンジ。ほんと同情する〜」
『なら金を……いえ、なんでもないです』
「カネ?あっ、話し込んでる場合じゃなかった!パーティは明後日、薔薇を塗らないと!」
ケイト先輩は、マジカルペンの先を薔薇に向けて、白い薔薇を赤へ染め上げていく。
なぜそんな必要があるのかとエースから質問が飛び、彼は答えた。
「なぜって、パーティの日は赤がフォトジェニック!みたいな?」
「……は?」
「ねぇ君たち手伝って!パーティに間に合わないとオレの首が飛んじゃう。この後はクロッケー大会のフラミンゴに色を塗る仕事があるし」
「なぜフラミンゴに色を?」
「反応が新鮮でカワイーね!この寮は、そういう法律で成り立ってるから。エースちゃん、カオルちゃんは魔法が使えないからペンキで塗ってね」
デュースちゃん、グリムちゃんはこうやって、と、ケイト先輩はお手本のようにペンを振り、薔薇に煌びやかな光線を当てていく。
「ふなっ、白い薔薇が赤くなったんだゾ!」
「俺たち、まだ細かい魔法は習ってなくて」
「オッケーダイジョブリラーックス!なんとかなるなる!」
ケイト先輩は赤いペンキをエースに渡してから、私にもペンキの入った缶を渡してきた。
「重いから気をつけるんだよ。制服にペンキつけないようにね」
『はい…あの、寮長って』
「この作業が終わって、タルトを持ってきたら会わせてあげるから!」
『…ん?』
タルトって何。
そう聞こうとした私を見越してか、ケイト先輩は私の口に人差し指を当てて、腰をかがめ、私の耳元で囁いた。
「お口チャック♪」
『………。』
ニッコリと笑い、制止してきた彼の瞳を見上げて。
私は思った。
(……この先輩)
百戦錬磨なんだろうなぁ、と。