第1章 蘇れ
「よろしいですね?」
『…………え?はい』
「今絶対、話聞いてませんでしたよね?「え?」って言いましたよね」
『言いましたが、大丈夫です』
「…私の方が不安なのでもう一度話します。今日のお仕事は学園内の清掃です」
『はい』
「素直でよろしい。といっても学園内は広い。魔法なしで全てを掃除し終えることは無理でしょう。ですので本日は正門からーー」
魔法が存在する異世界に飛ばされたんだとしても。
私は、こちらの世界の住人が扱える「魔法」というものが使えない。
「良いですかカオルくん。昨日のような騒ぎを起こさないよう、グリムくんをしっかり見張っていてくださいね」
『………わかりました』
「頼みましたよ。昼食は食堂で摂ることを許可します」
今現在のナイトレイブンカレッジでの私の立ち位置は。
男子校新入生用の扉から召喚されたわりに、魔法も使えないただの女性。
ちなみに、私は、女子高生なんて初々しい時代はとうに過ぎ去っている社会人だ。
我ながら、女子高生風の制服しか現時点で着るものを持っていないだなんて寒気がする。
しかも、私は昨夜、学園が取り仕切っていた入学式で、その見るに耐えない姿を全校生徒に晒してしまった。
式に参列していたうら若き男子高校生達が静まり返り、年齢詐称女の姿に、ジッと注目していたあの公開処刑シーンが、未だに頭から離れない。
そんな残念な身の上に加えて、無一文であることと、この学園に「召喚された」理由が、学園の所有する魔法の鏡の人材選定ミスにも責任の一端があるということで、元いた世界に私が帰るまでの間、学園長は私に住まいを提供してくれることになった。
学園長は、優しいので。
昨夜から私は、廃墟と化しゴーストの住まいとなっているオンボロ寮に住み始めた。
学園長は、とても優しいので。
学内の雑用係として労働力を提供すれば、衣食住を提供し続けてくれると言った。
「では、しっかり業務に励むように。」
そう言い残して、ホコリだらけ、蜘蛛の巣だらけの寮から出て行く学園長の背中を、グリムと一緒に見送った。
『…ねぇ、グリム』
「オレ様も多分同じこと思ってるんだゾ」
ひょんなことから出会った同居人同士。
顔を見合わせ、呟いた。
「『………朝食は、抜き?』」