第1章 蘇れ
「お邪魔しますよ。おや、カオルさん!制服のまま眠ったのですか?スカートで眠るだなんて!それに、服にシワがついてしまうじゃありませんか!しかもホコリに塗れた場所で眠るだなんて、我が校の制服に似たその服が台無しです!」
「『………。』」
それに、しかも、そして、加えて、あぁなんとまぁ!
と叱責の言葉をつらつらと並べ立てるタキシード仮面の物言いに、私とグリムは顔を見合わせて、ため息をついた。
初対面の人間相手にツナ缶ツナ缶と、昨夜から慈悲を知らない要求を押し付けてきていたグリムでさえ、この場の私に哀れむような視線を向けてくれている。
『…スマホも、財布も、鞄も部屋着も、何も持っていないので、着替えられないんですよ。なんでこの「男子校」の制服に似たような、スカートタイプのブレザーを着ているのかもわかりませんし』
「おや、そういえばそうでしたね。私としたことがウッカリです。お二人ともおはようございます!昨日はよく眠れましたか?」
「コイツ、大人のくせに人に謝れないタイプのダメなヤツなんだゾ」
私が不満げに、『ぐっすり!』と返答すると。
この学園の学園長を名乗るクロウリーさんは、言葉しか受け取らず、にこやかに答えた。
「異世界に飛ばされてきたというのに、図太くて大変よろしい!」
ーーーー異世界。
そう、私が今生きているここは、異世界に存在している「ツイステッドワンダーランド」という魔法の国にある、魔法士養成学校。
その名も、「ナイトレイブンカレッジ」。
昨夜、ようやく仕事を終え、永きに渡る労働から解放された私が眠りについた瞬間。
グリムの声を聞いた。
数秒も経たないうちに目の前が明るくなり、まぶたをこじ開けると、そこには燃え盛る青い炎が広がっていた。
慌てて身体を起こし、自分が。
見知らぬ棺の中に横たわっていたことに気付いた。
「魔法」なんて非科学的なものが、本当にあり得るのか?
「異世界」なんてものが本当に存在するのか?
確証なんてないけれど、信じたわけでもないけれど。
「私が生きていたはずの世界」では、誰もが目を疑うような事柄が、「こっちの世界」では容易に起こる。